Sound Lab Kichizyo

Ableton Liveのアレコレ

EQについて真面目に取り組んでみる その4~MS EQその1~

様々な方面からのEQの話

やってはいけないの2つの記事と、Dynamic EQの記事と続いて、今回はMS EQです。このMS EQですが、正直あまり使っていなかったのですが、しっかり使えたらカッコいいなぁと思って調べてみました。

一応今回のMS EQで、EQについて真面目に考えるシリーズは一旦切りとします。やってはいけない、という観点から、EQで避けるべきことや考え方なんかを取り上げた後、特徴的なEQの2つ。Dynamic EQとMS EQについて記事を書きます。何度も書いておりますが、当方素人でございます。何卒、あまり参考にしすぎない事をオススメします。殆ど自分用のメモ書きみたいな所がありますので。それと、MSコンプに関しては書いていませんが、当然ある程度内容が通じる所もあります。

 

念の為書いておきますが、Ableton LiveのEQ EightでもMS EQが出来ます。画像赤丸の部分でモードを変えます。

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参考にした記事や動画は以下です。誰が書いているか分からない記事や、どこの会社か分からない記事は避けています。

記事

5 Ways to Use Mid-Side Processing in a Mix — Pro Audio Files

Akonのプロデューサーの方が書いた記事です。この記事には動画も紹介されていますが、それも参考にしています。

Mid-Side Mixing: Pro Tips for a Crystal Clear Mix

有名なYoutubeのチャンネル、Musician on a Missionの記事です。書いている方は、Game音楽や、映画音楽なんかを作っている方らしく、そんな有名な人のプロデュースとかではないですが、シンプルに纏まっている記事で、この方の曲も可愛らしくて素敵です。

8 Common Mistakes in Mid/Side Mixing

天下のiZotope様の記事です。

 

動画

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次はiZotopeと人気を二分していると、昔はよく言われてた、Waves様の動画です。iZotopeとかWavesとか、EQ作ってる側の動画は、やっぱり意図した使い方を紹介すると思ったので、その辺の動画を参考にしています。

 

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iZotopeの動画です。iZotopeWavesは、販促の意味もあって、この手のTutorial動画とても多いですね。このiZotopeの動画は、よりマスタリング的な内容です。MS EQの話では、マスタリングの話はとても良く出てくるな、と思います。

 

www.youtube.com

最後は、最近よく見るStreaky氏の動画。知らなかったのですが、この方メチャクチャ有名なミュージシャンと一緒に仕事をしているようです。Linkedinによるとですが。

Skepta, Paul Weller, Naughty Boy, JME, Giggs, Boy Better Know, Lily Allen, P Diddy, Usher, Wiley, Depeche Mode, Kasabian, White Strips, and Chip are just a handful of the artists to benefit from Streaky’s expertise as a Mastering Engineer.

この方の動画は、面白いのが多いので、また違う内容もまとめて翻訳記事書きたいと思います。

 

沢山参照が有りますので、MS EQに関しては、二つの記事になりそうです。今回は、実際に使う方法の前段階の知識をまとめます。

 

MS EQってあんまり必要ない?

それを言っちゃあおしまいよ、って感じですが、実際これ私が今回色々調べて感じた事でした。というか、今まで良くわかってないくせにMS EQを使いすぎてた。というのがバッチリ明らかになりました。PCに詳しい友人が分からないなら使うな!とよく言っていましたが、本当の事ですね。

MS EQを下手に使うとMixが崩れるとiZotopeの記事では言っていますが、その原因の一つとして、位相が変わる事が述べられています。とりあえずやってみます。

先ずは、適当なドラムトラックを読み込ませて、UtilityをM/Sモードに。だんだんSideを上げていって、位相がどうなるか見てみます。Utilityで位相を変える方法はこちらです。

kichizyo.hatenablog.jp

これが元の位相です。

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UtilityでSideを上げてみました。完全に上げ切るとこのアナライザーでは分かりにくくなるので、とりあえずコレくらい。

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そうするとこうなります。

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もっと極端な場面もありましたが、とりあえずの例です。こんな感じで、位相がズレますので、Mixに与える影響は大きくなる、との事。iZotopeの記事ではこんな事が書いていました。

私たちが「Mid」と呼んでいるものは、実際には左右のチャンネルの合計です。
これは結局、左右で同じものが強調され、違うものが強調されないことになります。(Midを上げると、左右のチャンネルの同じMid成分が強調され、Sideは強調されない、という意味と思われます)Midを上げると、左右のチャンネルで同じようなものが強調されるため、結果としてモノラルとして認識されます。
「Sides」も同じくMono成分です。が、これは左側の情報から右側の情報を差し引いたもので構成されています。つまり、Sideを上げると左側+位相反転された右側が強調される事になります。

MS処理は、センターとサイドを完全に分離している訳ではありません。常にオーバーラップがあります。このオーバーラップがMixにどのように現れるかを理解していないと、大きな悪影響をMixに与える事になります。

もっと数式的なものとか色々有りましたが、もの凄くざっくり言うと、Midを上げるとMonoになっていき、Sideをあげると、位相が反転した音が上がっていき、音が大きく変わってくる。そして、音を完全に左右に分離した処理ではないので、音がタブッてる所が出る。という感じです。

例えば極端に左側にPan設定したオーディオも、MS処理すると、実際にはMidとSides、両方に影響があるから、楽器の明瞭度が無くなったり、空間的に歪んだ変なエフェクトが発生したりする、という事が例で挙げられています。

結局、何でもそうだとは思いますが、極端な使用は避けるのがMS処理の基本と言っても良さそうです。

 

その他の注意点

一番注意しないと行けない所は、MS EQはMixにかなり大きな影響を与えるということです。さらに上記の位相の問題が有るため、真上に書いた通り、極端な使い方をしてはならない、という所が多くの記事でも述べられていた所でした。特に多く言及されている、マスタリングでの使用は、軽めに使って、極端な使用は絶対に避けるように、というのがマスタリング専門家のStreaky氏の言でした。Steaky氏はマスタリングでは、7db以上上げることはほぼ無い、実際は7dbよりももっと下。1dbとか2dbとかの方が多い、とまで言っていました。

特にMS処理では、音を大きく広げたい、という目的から、Sidesの処理をやりすぎる傾向がある、と幾つかの動画や記事で述べられています。これも結局、当初意図したバランスから崩れるような、極端な使い方をしてはならない、という所に繋がっています。ここも面白い例えが書いていて、

これは、写真を撮ってPhotoshopに入れ、背景の要素を前景の要素と同じようにクリアにする為、様々なエフェクトを使っているのと同じことです。
最初は良いと思えるかもしれませんが、しばらく見ていると、全てが前面に押し出されていて、強調されすぎているように感じ、全体がズレているように感じます。
ソニックの世界では、Sチャンネルを強調しすぎるとこのようなことが起こります。

という話が有りました。

また、実際の様々なリスニング環境を考えることが重要、というのは、iZotopeの動画で述べられていました。

例えば、車で音楽を聞く時は、運転席で音楽を聞くと、片方のスピーカーが遠くにあります。この車で音を聞く、という所について、iZotopeの記事ではこの様に述べられています。

過度なCompがかかった音と、極端に音場が広げられたMixは、特に大きな音を出すスピーカー、Hi-Fi音、モニタースピーカー、車のスピーカーで聞くと、似たような閉塞感や耳の疲れが発生することに気が付きました。

これに気付くには、ステレオバスに関して数年考えた後でしたが、一度この気づきを得ると、様々な事が上手くいくようになりました。
ミックスを車に持って行ったり、疲れていない状態の耳でモニターで聴いたりすると、過度なCompの特徴である閉塞感を感じる出来事がありました。その後メインバスのComp、Limitter、Multiband Compをチェックして何が起こっているのかを確認すると、酷い過度なコンプの特徴の割に、たった-0.5dBのゲインリダクションしかしていない事にとても驚きました。
音楽的な時定数が問題になっているのかとも思いました。Compを切ってみても閉塞感は消えません。何が起こっているのでしょうか?

全てのエフェクトや処理を調べてみた所、EQの中のMS処理をしている帯域にバイパスをかけると、過度なコンプの特徴の閉塞感が消えました。
そこで、同じように感じた事のある過去のMixでも、同じ現象が起きているのにも気づきました。

MS EQをやりすぎると、コンプレッションを煮詰めすぎたように感じるのはなぜでしょうか?
それは前述の、MS処理は単純にMidとSideを分けている訳ではないということ、位相の問題でトランジェントが消えている事、過度なMS処理で周波数のバランスが崩れてしまっている事が関係しているのではないかと思います。

ミックスを車に持ち込んで聴いてみて、その様な現象が起きて、何かしらの過度な処理に気づいた場合、MS処理によって音場が広くなりすぎている可能性があることを考えてみてください。

ここは結構重要なポイントだと思いました。

また、スマートフォンや、イヤホン、スピーカー等、実際に音楽を聞く時は様々なリスニング環境が考えられます。そうした時に、何がセンターになるか、というのはとても重要です。キックやスネア、ベース、ボーカル、重要な楽器が片方一方から聞こえて、一方からは小さい、という状況を作らないように、MS処理で問題となるMidに何が有るのかを、よく理解するように、との事でした。

ちなみに、EQ Eightでは、下画像のように

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M/Sモードにした後、右上ヘッドフォンボタンを押します。そしてMidかSidesを選択して、任意の場所をクリックすることで、MかSの、その周波数がどういう音なのか、ピンポイントで聞くことが出来ます。

 

人間の耳は、真ん中から聞こえてくるもの、また極端に左右から聞こえてくる音が目立つように出来ているそうです。

MS処理は完全に左右を分ける処理ではなく、Midは左右のチャンネルで、真ん中に配置した音の合計、というのは前述した通りです。

これはiZotopeの動画で、どれだけ音を大きくしたいかにMS処理が関係する、という内容で語られていましたが、左右のスピーカーから同じ音が出ている時は、当然その音は大きく聞こえます。殆ど片方からしか音が出ていない。また、左右別々のタイミングで音がなっている、という場合は、当然小さくなります。

Midは左右のチャンネルで、真ん中に配置した音の合計、という所から、音をなるべく大きく聞かせる、という目的にも、このMS処理が大きく関わってくる、という事も、考えて使うと良い、との事でした。

 

それともう一点。これは特にMS Compに関しての言及でしたが、EQでも同じことが言えます。例えばギターのトラックにEQやCompを使用して、そのバス・トラックにMS処理を使う、となると、EQやCompを二重でかけている。しかも2つ目のEQはMS処理という特殊なエフェクトである、という事を意識しないといけません。

同じ要素の音が、異なるCompやEQ処理を受けることになり、2 つのタイプが違う処理によって異なる方向に引っ張られたり、押されたりするような、意図した物と違うサウンドになってしまいます。
例えば、左右のチャンネルにギターを配置したロックミックスの場合、MS Compを適用してMidをSidesよりも圧縮すると、左に位置したギターが変な間隔でレベルが上がったり下がったりすることになり、ミックス全体のバランスが崩れてしまう可能性があります。

 

次回は、記事や動画で実際に取り上げられていた使用方法について調べてみます。以上ありがとうございました!