Sound Lab Kichizyo

Ableton Liveのアレコレ

EQについて真面目に取り組んでみる その5~MS EQその2~

実際MS EQはどんな使われ方をしているのか

前回の記事で、MS EQに関して、前知識というか、基本的な所を参照記事や動画から書き出してみました。実際どうやって扱うかに焦点を当てたこの記事よりも、むしろ前回の記事の方が重要な事を書いていると思います。前回の記事はこれです。

kichizyo.hatenablog.jp

今回は、その参照記事や動画で、実際にMS EQがどう使われていたかを纏めたいと思います。

これはiZotopeの動画で取り上げられていたのですが、MS EQの使用の一つの基準として、主にセンターの音に何か問題があって改善したい時、またMixと音作りは良いけれど、ステレオに狭さを感じる時などにMSの使用を考える、という話が有りました(もちろんそれだけがMS使用の理由ではありませんが)。この様に、ステレオやモノでの問題点や不満足に感じる部分を発見した時に、具体的にMS EQをどう使うか、が以下になります。

幾つかのジャンルに分けて、纏めていきます。

 

マスターバス

MS EQを使用する場合で、使用頻度が高いものの一つがマスターバスだと言われています。Mixがある程度完成した時に、Monoで全体を聞いてみると何かがおかしい、と感じることがあります。ステレオで聴く場合とモノラルで聴く場合で、バランスが若干変化するのは当たり前の事ですが、この変化を最小限に抑え、最終的には素晴らしいサウンドが得られる音場の作り方が目標である、と述べられています。
その1でも書きましたが、音楽を聞く環境は様々です。クラブ、レストランのスピーカー、車、様々な環境でどう音が上手く聞こえるかは、この音場の作成がとても重要です。

この際、ステレオ幅の調整に関しては次に書きますが、ステレオイメジャーを使い、Midを広げたり、トップエンドを広げたり、それも一つの解決策ですが、ここでMSを使うのも一つの手法です。MSの使い方で最も一般的と言える、マスターで、SideのLow Endを削り、Top Endの音を上げる、また、MidのLow Endの調整、という物がそれです。

例えば、その1では参照に載せていませんでしたが、こちらの動画。

www.youtube.com

マスタリングエンジニアのSub Bass処理として、上記のLow End処理を使い、強すぎるSub Bassを、MS EQとDynamic EQの併用でスッキリとしたものに仕上げています。

また、その1で紹介した、同じくStreaky氏の動画のこの部分。

youtu.be

ここではまさに、上記のSidesの処理が行われています。

私の作業途中の曲の処理で恐縮ですが、Sub Bassの強い曲だったので、Streaky氏の動画を参考にして、MS EQをマスターで使用しました。かなり強烈な使い方ですが、Audio Effect Rack内のチェーンの中の音です。

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この処理をして、目標のバランスがこんな感じで、低音がある程度整いましたが、

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このEQを切ると、

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こういう感じで、聞いたらすぐ分かるくらい低音が極端になります。実際ステレオ幅も、低音を削ることで広がっている様に感じるのが分かります。

 

低域がステレオのフィールドに広がってしまうと、 ミックスを圧迫してしまいがちです。MS EQでの低音処理は、上記の様に、Sidesの低音をカットすることで、濁りを取り除き、低音を中央に寄せることができます。

一般的な使い方は上記の通りですが、他に具体的に述べられていた例として、

例えば、ステレオで聞いた時はローエンドはクリーンでクリアなのに、モノで聞いた時は少しぼやけている時、あるいは左右がハッキリしすぎていて、ステレオの情報が過剰な時にMS EQを使うと効果的な事がある。

あるいは、ステレオで聴いているときに、Midの音をもう少し目立たせて、Sidesを抑えたい時に、Midのみをブーストすることで、バランスを歪ませることなく、これを実現出来る場合がある。

 という言及も有りました。

 

ステレオ幅の調整

ステレオ幅の調整に関して、まずStereo ImagerとかStereo Image Enhancerとか呼ばれるものが候補に挙がりますが、iZotopeの記事ではStereo感を高めるために、このStereo Imagerを使うのは良いのだけれど、Stereo Imagerは効果が大きいため、あくまで少しだけ使う、というのが原則だそうです。前の記事で書きましたが、圧縮されすぎたミックスや広がりすぎたミックスは、特にラウドスピーカーやHi-Fi、モニター、車のスピーカーなどで、耳の疲れに似た感覚を引き起こす可能性があります。

その為、微妙なステレオ感の調整にはMS EQが良い、と言われています。

その為の知識として、EQ をブーストした際、サイドのステレオの広がりを最も顕著に感じ取れるのは、サイドの中域をブーストした時という事を知っておくと良いとの事。私たちの耳は、中音域の空間的な違いにとても敏感に反応します。その為サイドの中低域をブーストすることは、空間を広げるのに非常に効果的なのだそうです。

具体的な使用方法は上記の通り簡単です。Sides、特に中域を持ち上げたり、Midの低域を下げることで、Sidesのステレオ幅が広がる様に感じます。これはその目的やMixによって考え方が違うので、一概に言えませんが、ステレオ幅を繊細に広げる為に、MS EQは大きな役目を果たす事が出来る、ということを知っておくことが重要です。

しかし、注意しなければならないのは、当然の事ですが、それが出来るからといって、それをすべきとは限らない、という所です。MS処理の影響は、前回の記事で書いた通り、使い方を間違えるとMixを壊します。重要なことは、なぜ音場を広げたいのか、という所です。ステレオ幅を狭めた方が良い場合もあるし、オートメーションやDynamic EQを使用して、ある部分では広くして、ある部分では狭くする、等の工夫も考えておくべきです。

 

楽器間の周波数帯の調整

EQなので当たり前ですが、これもメインの使い方です。幾つかの記事では、Mixの明瞭度を高める目的での使用が述べられています。MidとSidesを別々に、細かくEQingして、対立している要素を修正します。

具体的には、

 

1.ギターとボーカル

今回はギターとボーカルを例に出しましたが、他の楽器でも考え方は同じです。例えばギターとボーカルが同じ基本周波数帯を共有しているためにぶつかる事があります。

ギターの基本周波数を下げることもできますが、それではギターにパンチが無くなります。ここでMS EQを使い、ギターのMidの基礎周波数を下げ、Sidesの基礎周波数を維持することができます。こうすると、ボーカルがギターを傷つけることなく明瞭度を上げることが出来ます。

ここでは述べられていませんが、Dynamic EQも同じ様な使い方がありますので、併用するのも実に良い手法と、記事を書きながら私は思いました。

Dynamic EQに関してはこちらです。

kichizyo.hatenablog.jp

 

2.Sidesに置かれているバックグラウンドボーカルの処理

マスターでの処理としても良いですが、例えばサビの時、MixのSides部分に重ねている、バックグラウンドボーカルをもっと出したいと思うことがあるかもしれません。この時にもMS処理でとてもスッキリとした結果を得ることが出来ます。

ボーカルの周波数帯域を特定し(今回は記事に習って500Hzから2.5kHzの間とします)、Sidesにボーカルが入ってきた時(例ではサビの部分)に、Sidesのボーカルの主な周波数を少しだけ、広い範囲でブーストするようにオートメーションをかけます。この時、最大でも 1.5 dB を超えないようにします。少しのブーストで、ボーカルの意識を高めることができます。

 

3.シンセやギターのバランス作成

Wavesの動画で言及されていました。これはシンプルかつ基本的な使用方法で、Midの低音を下げ、Sidesの高音を上げる、という所。

ちなみにWavesの動画では、Scheps 73を使っていましたが、結構8dbとかまでガッツリ上げてて、中々やりよるな、と思いました。一応例として数字も書きましたが、普通のEQでも8dbブーストって中々勇気がいる所と思います。

また、シンセに関して、

特にEDMでは、多くの明るい要素が一緒に演奏されていることは珍しいことではありません。
非常に耳につく、例えばホワイトノイズのようなTop Endは、その音単体ではとても良いと思える事が多いですが、他の明るいサウンドと組み合わせると、全体的にあまり良いサウンドにはならないという事があります。

そういう時は、私は自分が最も魅力的だと思うシンセのTop Endを選び、他のトラックで重なっているTop EndをFilteringする事があります(10K以上など)。
しかし、その他Hi Hatやクラッシュ、明るいスネアなどを使っていると、高音が混雑したように聞こえる事もあるので、優先順位を付けることは重要です。

 みたいな事が書いていました。さらに、一つの手法としてですが、

さて、これは少し意見が分かれるところですが、MS処理にダッキングを加える事で、Top Endをクリアかつオープンにするという方法があります(書いてて思いましたが、MS Compだけでなく、MS Dynamic EQもそうですね)。
Hatとクラッシュをセンターに配置し、高音がおいしいシンセのTop Endを、Midのみでトリガーして、Hatやクラッシュをダッキングさせます。
これにより、シンセのトップエンドは保持されますが、ハットとクラッシュのためのレーンが確保されます。

このような極端な事はさておきですが、サイドのシンセの音で中音域を少し下げることで、音が非常に広がりを持って聞こえるようになることがあります。

 という手法も書かれています。

 

4.ドラムのオーバーヘッド

ドラムキット全体の音のオーバーヘッドですが、クラッシュ、ハット、ライドだけでなく、スネア、キック、タム等、全てのコンポーネントを使用しているので、クローズマイクだけでは不可能なバランスを操作したいと思う事は、私はドラム録音とか一回しかしたこと無いですし、ドラムのオーバーヘッドマイクを触る、というのはあまりありませんが、普通のドラムループのサンプルを使う際でも同じことが言えると思います。

MS処理を使って、オーバーヘッドのバランスを調整する事も述べられています。例えば、MS処理を使って、シンバルを維持しながらオーバーヘッドのスネアレベルを下げるのは、Compの使用も勿論良いのですが、スネアは中心に位置する事を考えたら、MS処理が使えるのは確かです。
オーバーヘッドのキックとスネアのLow Endを維持しながら、サイドのLow End情報だけをMSで減衰させたり、MidのLow Endのみをブーストしたり、あるいはその両方を行うことで、全体的なミックスの中で望ましいLow Endを作り込めます。最終的には、ここには多くの手法や可能性、理想があり、何を求めるかにもよりますが、スタイル的に完璧なドラムサウンドを得るためには、MSは一つの有効な手段となる。という事でした。

ただ、こちらもこの様に書かれています。

MS テクニックでドラムバスの幅を大きくしたくなるかもしれませんが、そうするとキットのリアルさが損なわれてしまうかもしれません。
ドラムのバランスを適切にとるためには、個々の要素の間の位相関係を正確に調整し、空間を明確に区切るようにします。

が注意点だそうです。

 

5.MS処理でボーカルの音を目立たせる

センターの重要な音を際立たせる際にもMSが使えます。例えばボーカル。もちろん声によりますが、センターで所謂ボーカルの良い音を持ち上げ、存在感を上げます。

また、MSでディエッサー的な事を行う事も説明されていました。マルチバンドコンプでディエッサーの様な事をする場合がありますが、それをMidのみの、よりピンポイントで行う、という感じでしょうか。

MSを使うことで、例えば広がっているリバーブの反響音等に影響すること無く、真ん中の音だけ強調できるという特性があります。ステレオイメージを壊さずに処理を行えるため、ボーカルだけでなく、他の楽器でも使えます。例えば動画では、MSコンプで行っていましたが、Midのタンバリンの音を抑えて、ボーカルとの被りを消す。という手法がありました。

 

6.Low Endの調整

EDMで使われる手法ですが、キックと他の要素の間に従来のサイドチェインのダッキングに加えて、MSを使った特殊ダッキングを作ることができます。

これは、音場の広い楽器のSidesのみに、キックをトリガーとしてダッキングを行う処理です。これにより、楽器の音量だけでなく、ステレオフィールドが伸びるような効果が生まれます。
この手法は、ダイナミクスに新しい効果を加えることで、ポンピング感を大きく高めます。ただ、これは非常に特殊な使用方法であり、必ずしも適切な効果があるとは限りません。

これ正直使いみちが特殊すぎて、パッとどうなるか思い浮かばないのですが、とりあえず書いてあったので、メモとして残しておきます。

 

7.サンプルの操作

ヒップホップや様々なスタイルのエレクトロニック・ミュージックでは、サンプルをミックスすることがよくあります。

この場合の難しさは、サンプルの音は作り込まれた物が多いですが、それらを実際に使う為に、他の要素とのバランスを取る必要があります。よってEQを工夫しなければならない事があります。
例えば、レコードの左側にある特定のギターの音を強調しながら、スネアの音を出さないようにしたり、ハイハットの音を出さずにサンプルを明るくしたりすることもあります。

M/S処理は、より具体的に何を達成しようとしているのかを明確にしたら、良いサンプル編集の手助けとなります。

 

8.ダイナミックコントロール

これは記事にあったので書いていますが、MS EQじゃなくてMS Compの内容でした。ちょっと話ズレるので、凄くざっくりだけ書きます。

一例として書かれていたのは、ステレオギターのトラックやバスにMS Compを使用する方法でした。Glue Compをトランジェントには影響しないような感じでMidにかけて、Gainを上げ、ちょっとルーズな感じに。またはそれをSidesにかけると、全体が中央に吸い込まれるような、タイトな感じになる、という例が書いていましたが、何かざっくり過ぎて意味不明ですいません。ですが、EQでもCompでも、前の記事で書いた、MSの注意点みたいなものは変わりません。その辺りを考えて、Compも使いましょう、という感じでした。

ただ、MS Compは、適当に使ってると、個々のトラックに使ってるCompと競合して、意味不明な現象を起こすことが多々あるそうなので、あくまで軽く使うべき、というのは、前の記事で書いたとおりです。

 

オートメーションでの使い方

MS処理を使う最もシンプルな方法の一つがボリュームオートメーションです。どんな種類のMS処理のプラグインを使っても、サウンドのMidとSidesを別の形でオートメーションがかけれる、というのは一つの強みです。

この方法でよく使われるのは、目立たせたい箇所で、ドラムのオーバーヘッドやギターのサイドのボリュームを上げる事が言われています。これにより、ミックスに微妙ではありますが、効果的なエネルギーを与えることができます。

あるいは、静かに聴かせたい時に、ボーカルのSidesを少し下げて、より音に密接感が出るという手法、またはその逆に関しても書かれていました。

しかしながら、この手法は全体的なボリュームバランスに注意が必要になります。Mixの全体的なボリュームレベルを壊さないように注意しないといけません。

 

 

大体以上で内容はまとまった気がします。メモ書きみたいな感じのくせに長文ですいません!ただ、どの記事でも書かれている事ですが、MSでステレオを調整するよりも、楽器の重要性を理解して、適切なPan設定をする事が、まず第一である、という事も、注意点として書いておきます。

 

一応これで、EQシリーズを簡単ですが終わります!ちょっと長い、素人のメモ書きですが、もし取り入れれる部分がありましたら嬉しく思います!

 

以上ありがとうございました!