リバーブのワークフローと総まとめ
最初の記事はこちら。参考にした記事と、リバーブのパラメター、働き、基本的な種類について。
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2つ目はこちら。リバーブとEQの併用、また、BPM同期リバーブについてです。
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3つ目は、秘密のリバーブテクニックということで、ちょっとエフェクト的なリバーブや、どっかで聞いたことある感じのリバーブを紹介しています。
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一応ここまでで、Mixにおけるリバーブの為に必要な技術や知識は一通りクリアしたということに勝手にします。ここまでやって、最終的にリバーブをミックスで行う際に、どういったワークフローになるのか、最終的な纏めとして書いていきたいと思います。
所謂空間系エフェクトと呼ばれるリバーブですが、基本として、かければかけるほど、そのトラックは後ろに下がって全体に潜り込みます。後ろに下げまくると、空間の奥行きは広がりますね。
ただ、どのような空間を想定して、どれ位後ろに下げるのかをよく考えなければなりません。一番メインになるボーカルを後ろに下げても仕方ないですし、雰囲気を作るための音を前に出しても駄目です。
その為、目の前で鳴って欲しい音にリバーブはそんなに必要ありませんし、ディレイだけの方がハマるトラックもあります。
間違いなのは、具体的な演奏されている場所のイメージを持つことの様です。
もちろんリバーブをかける楽器によっても違いますが、例えば、パンクバンドが教会みたいな空間で演奏している様なリバーブが欲しいのか、ゴスペルが狭くて妙に反響がある風呂場みたい場所でやってるのが欲しいのか、という所です。もちろんそれが悪いとは思いませんが、具体的に演奏されている場所の音場感を想像することは、リバーブ設定の前段階に必要なことです。
ただ、あくまでイメージです。実際に聞こえて落ち着く音が一番重要ではあります。
画像はWavesのRverbで、そこまで複雑ではないリバーブですが、それでもこれだけRoom Typeを選べます。
プリセット選び
この後は、プリセットから選んでいくのがスタートとしては良かろうとの事です。最近はプリセットも様々な種類があり、自分で細かく作るのは後にして、近道としてプリセットからまず選ぶのが良いかと思われます。
記事その1で述べたリバーブの種類を参照にして、大体その役割ごとに複数のリバーブを準備する事が一般的な様です。こちらの「リバーブの種類」を参照下さい。
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ただ、あまりにも沢山の種類を使いすぎると統一感が無くなるので、役割を考えて設置するのが良いとのこと。具体的には以下が例です。
これはBlendとSizeを調整する目的。反響音最初の0.5秒はBlend感に、最後の部分はSize感に影響を与える事を考えます。Send and ReturnにWet100%で設置するのが基本で、Punkはガレージ(狭い)、アンビエントはホール(広い)等、その楽曲にあったSizeをイメージすると良いとの事。
②ToneやSustainを強調するリバーブ
Blend感やSize感よりも、ToneとSustainに注目してプリセットを選びます。SpringとPlateが選ばれる傾向にあります。ちょっと浮かせたいときは、直接トラックにリバーブを挿すこともしますが、その際はWetとDryのバランス調整が必要です。
③特定の楽器のみに使う特殊系リバーブ
例えばCompをガッツリ掛けたリバーブ、Eventide Blackholeなど独特な反響音を持つリバーブ等です。これは使い方も特殊なので、直接トラックに挿すこともありますし、Returnチャネルから送ることも有ると思います。
エフェクト系リバーブもここに含みます。
上記3つを組み合わせると
例えばこんな感じでしょうか。
ナチュラル系で、RverbのChamber。SoftubeのSpringでかなりToneを際立たせるリバーブで、Blackholeは、Drum Filter Toolboxという、かなり個性的なリバーブを設定しました。これは適当ですが、こういう感じで役割を考えたリバーブを設置します。
サンプルで元々リバーブかかってるとかも有るし、シンセのリバーブが良いとかもありますので、単純に3つで!とかにはなりませんが、大体の指標です。
プリセットを選んだ後から、それぞれのリバーブの設定を行いますが、数字ごとに分けて設定のコツを纏めます。
1.リバーブをかける場所を決めます。
Mixは原則として、一番聞かせどころの一番うるさい場所で、一番大事な音から始めるとよい。
と言われています。ある場所をピックアップして、全体を聞いて、浮いている音や近すぎる音(これらはリバーブによるブレンドが足りない)に当たりをつけます。どの音にリバーブが足りないか、どの音にはリバーブが不要か、様々なトラックとの関係性で判断します。
2.Send and Returnから送ったリバーブをそれぞれのトラックでどれだけかけるか、つまりBlend感を決めます。
今どきはCPUも優秀になってきているので、Sendから送る必要も無い場合も増えていますし、その方がよりそれぞれの音にあったリバーブをかけれるというのも有りますが、一応CPU節約のSend and Returnから、という考えて行ってみます。
一番重要な音から始めるのが良いですが、いまいちやりにくかったら、Drumのループトラックや、Drum全体など周波数が広い音色を持ったトラックから始めるのが良いでしょう。
リバーブを足せば足すほど、その音はBlendされ後ろに下がっていく事が原則です。
全トラックミュートをして、一番大事な音から再生し、順番に追加して行くという手法が結構効果的です。再生順が優先順なので、優先順位の高い音のリバーブ感を第一に考えることが出来ます。
3.微調整します。
Size調整もBlend調整も一回リバーブを切って、少しずつ上げたり、上げすぎから少しずつ下げたりして、適切なSizeとBlend感を探します。
4.必要な場合は残響カットをします。
SynthやKeyboards的な音であまりにも長いリバーブを使って、スピーディーにコードが変化する楽曲では、反響音でコードの変化が分かりにくかったり、次のコードに前のコードの反響音がかかったりするので、注意します。この解決方法は、こちらの記事の「残響カット」を参照してみて下さい。よく効きます。
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5.EQで反響音を調整します。
次にSend and Returnのリバーブの前にEQを入れ、反響音の調整をします。過度なHigh-Frequencyを強調させる反響音は、美しいアコースティックを殺す場合があります。また、マスキングはLo-endで起こりやすいです。この為Low PassやHigh Passフィルターを使います。詳しくは以下の記事の「EQテクニック」を参照してみて下さい。例の音源があります。
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6.必要な場合は、Dynamic Process(Comp等で音の強弱大小の調整)をリバーブに入れます。
ナチュラルなリバーブでは、極端なCompは避けます。こちらも、前の記事でCompリバーブがどういった音になるのか紹介していますので、リンクを貼ります。
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また、こちらはどちらかと言うと、特殊リバーブになりますが、Compressed Reverbと題して、プリセットを作っていますので、一応紹介しておきます。
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7.Size、PreDelay、Decay Timeの調整をします。
プリセットを選ぶ段階で、ある程度リバーブの雰囲気は決まっていると思います。例えば種類とか、部屋のSizeとかです。
先ずSizeですが、この辺りは感性で良いかと思います。原則として、Tempoが早いとタイトな狭いリバーブ。Tempoがゆっくりなら広いリバーブが合う傾向があります。
TimeとPreDelayを設定します。この効果的な方法として、BPM同期リバーブというのを紹介しています。大変効果的ですので、参照してもらえればと思います。
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PreDelayの重要な原則は、
PreDelayを上げるとDryのシグナルが強調される為、マスキングを減らしMixをクリアにする
PreDelayが少ないと、反響位置はより遠くになる(すぐに反響音が聞こえる →PreDelayを使わないとリバーブ空間内での位置は、後ろの壁にひっついている状態になる)
10~20msのPreDelayからスタートして調整する事が多い。
Sizeの上げ過ぎでBlend感に影響が強く聞こえるようなら、PreDelayを50msから上に設定すると、SizeとBlend間の問題は解決することが多い
との事。BPM同期リバーブをする際にも、この考え方は重要と思います。
8.Bypassを使いまくります。
音を改善するのがMixです。MixではよくSoloボタンは敵でBypassボタンは味方、と言われます。Soloを使うと、トラックの干渉が分からず、出来上がったMixが想像と大きく変わることが多く、Bypassを使うと、原音から以下に改善、改悪されたかが分かるからです。
BypassのOnとOffを繰り返し、適切なリバーブ設定をしましょう。
②ToneやSustainを強調するリバーブの設定
基本は全て①で書いた方法ですが、②ToneやSustainを強調するリバーブの設定、で重要な事は、
基本はSpringとPlateが選ばれる傾向があります。
1.メインの音、重要な音、もっと目立たせたい音を選びます。
Vocal、Snare、Guitar等、艶を出したい音、目立たせたい音はこの手のリバーブが良いです。
2.Send and ReturnにPlateやSpringリバーブを入れるます。
特に目立たせたいトラックに、Send and Returnでなく、直接リバーブを入れた方が効果的な場合は多いです。CPUが許せば、ですが。その場合、WetとDryのバランスをPresetの時点で調整しなければなりません。
それ単体ではおかしいですが、Mix全体で聴くと良い時がある。音が目立ち、Blend感が減る為、そうさせたい音色に使うと良いとのこと。
3.Send and Returnから送ったリバーブをそれぞれのトラックでどれだけかけるか、つまりBlend感を決めます。
上のナチュラルなリバーブで言うところの2です。同じ感じです。
4.EQで反響音を調整します。
Notch Cutも、反響音のSustain 調整にはよく使われます。
5.Size、PreDelay、Decay Timeの調整をします。
これも上のナチュラルなリバーブの設定と同じです。ただ、Comb-Filtering効果で、Phase Cancelが発生する事があります。10ms以下のPreDelayが引き起こす可能性が高いため、注意すると良いとの事です。
6.特殊効果が欲しいときは使います。
例えば、Gated Reverbというものがあります。深めに掛けたリバーブを、Gateを使って、途中で反響音を切る手法で、1980年台に多用された手法です。これも反響音を、その特殊性という意味で強調させるので、②のリバーブはこれを使ってみても良いです。後は①と同じように調整すると良いでしょう。
③特殊系リバーブの設定
手を抜いている訳では有りませんが、必然的にこの辺りも説明が短くなります。こちらの記事を読んでもらったほうが良いと思います。
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そういえば、上記のGated Reverbは秘密のテクニックに載せていませんでした。これも特殊リバーブに入りますので、使ってみるのも良いかと思います。
場合によって、超ピンポイントでの使用もありますので、結構思い切った設定を選んでみると、思ってもみない感じになって、面白いかもしれません。
一応、以上でMixにおけるリバーブを終了したいとおもいます。結構な文章量になりました。
世の中に公開されている情報だけで、感覚だけで使いがちなリバーブのワークフローを作ろうと思って始めたシリーズですが、やはりリバーブは奥が深く難しいと感じました。しかし、一応体系的に内容を纏めれて、一つの指針は作れたような気はします。ちょっとした助けになれば幸いです。
ありがとうございました!